研究室紹介

 一つの元素を取っても,いくつかの同素体が存在します。例えば炭素の同素体として,ダイヤモンド,黒鉛,フラーレンがあり,色・硬さ・電気の伝わりやすさ等の性質が大きく異なるため,用途によって使い分けることができます。このような同素体の中には,既存材料を凌駕する物性や性質が発現する可能性があります。そこで,世の中で提案されている種々元素の同素体の利点を組合せる,または欠点を補うように構造体を構築して,目標とする物性を示すか調査しています。ここで調査した新奇材料を用いて,環境・エネルギー問題の解決に役立てられるような発電池・蓄電池の開発を行なっています。 また,電気化学・電気電子計測や,量子科学シミュレーション等を駆使して研究に取り組んでいます。

高性能発電池の電極材料開発


 近赤外光を含めた全波長の太陽光を発電に利用することを目的として,電気的性質の異なる単層カーボンナノチューブ(SWNT)を選択的に合成し,合成したSWNTを太陽電池の光電変換層に適用することを目指して研究を進めています(左図)。
 最近の研究成果としては,SWNTの新規構造制御合成法の提案や,SWNT内部に炭素直鎖分子の導入による電気的性質制御方法の提案を行いました。


[1] T. Tojo, R. Inada, Y. Sakurai, and Y. A. Kim, Single-walled Carbon Nanotubes Directly-grown from Orientated Carbon Nanorings, Carbon Letters, 27(1), 35-41 (2018).
[2] T. Tojo, C. S. Kang, T. Hayashi, and Y. A. Kim, Electronic transport properties of linear carbon chains encapsulated inside single-walled carbon nanotubes, Carbon Letters, 28(1), 60-65 (2018).

高容量蓄電池および次世代蓄電池の構成材料開発

 リチウムイオン電池(LIB)の高容量化を目的として,現行負極材料:黒鉛の7倍以上の容量を示す可能性のある,リチウム合金化材料-炭素材料複合体の開発を行なっています(左図)。
 次世代蓄電池の創出として,理論上,LIBの2倍以上の高エネルギー密度化が可能な多価イオン電池構成材料の開発を行なっています(左図)。
 研究成果として,前者については,リンをカーボンナノチューブ内部に導入することで,安定な充放電反応と高容量化を達成しました。
 後者については,層状酸化モリブデンをカルシウムイオン電池電極材料に適用することで,可逆な充放電反応が確認されました。

[1] T. Tojo, et al., Electrochemical Performance of Lithium Ion Battery Anode Using Phosphorus Encapsulated into Nanoporous Carbon Nanotubes, J. Electrochem. Soc., 165(7), A1231-A1237 (2018).
[2] T. Tojo, et al., Electrochemical Characterization of a Layered α-MoO3 as a New Cathode Material for Calcium Ion Batteries, J. Electroanal. Chem., 825, 51-56 (2018).

電気電子工学を用いた電池診断技術開発

 現在,電気自動車に搭載されているリチウムイオン電池(LIB)を定置用蓄電池に再利用するための実証実験が行われ始めています。使用済みLIBを再利用するためには,電池の健全性を評価し,安全に使用できることを確認する必要があります。本研究では,電池の健全性を簡単に評価するための測定手法の開発を行なっています。
 最近の研究成果として,光学分析手法を用いて(左図),電池の安全性を脅かすリチウム金属の析出状態を把握できることが示唆されました。今後の研究では,電気電子工学技術を活かして電池診断を行う手法を開発する予定です。

[1] T. Tojo, et al., Ex situ 7Li Nuclear Magnetic Resonance (NMR) Observation of the Metallic Lithium Deposited on Graphite Anode for Lithium Ion Battery, The 2nd Joint International Symposium between Alan G. Mac Diarmid Energy Research Institute and Institute of Carbon Science & Technology supported by NRF and JSPS, Gwangju (Korea), 2015/9/24.

計算科学を駆使した電池構成材料設計

 生命活動を電気工学の観点から考察するために,神経細胞や筋肉細胞に活動電位を発生させるためのイオンの通り道(イオンチャネル)をモデル化し,先端的医療につながる生体電池の開発を進めています。
 イオンチャネルは円筒状構造を有しており,細胞膜を貫通した形で存在しています。生体内のイオン移動により,細胞膜内外でイオン濃度差が生じた際に,細胞膜に電位が発生し,この電位により生体活動を制御しています。

 本研究では,イオンチャネルに類似した円筒状構造を用いて,そのような生体現象を模擬できるような材料開発を行なっています。
 最近の研究成果として,計算科学シミュレーションより,円筒状炭素構造中を生体イオンが移動する様子が観察されました。中でも,特殊な構造体である,ドーナツ状炭素構造体を用いることで,イオンの移動が円滑に進行することが示唆されました。
 今後の研究としては,イオンの通り道を確保した上で,ドーナツ状炭素構造体を細胞膜中に固定化するための実験を進めたいと考えています。

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